囚人たちの作った小さな銀の十字架は春の光を受けて輝いている
母さんはこれをペンダントにして僕の首にかけてくれた
この十字架は囚人たちの改悛の涙で出来ているんだ
そんな風に神父様は言って聖別してくれたけど
僕は黙って
実は兄さんもあの刑務所に居るんだってことは伏せて置いた
囚人たちは他にもいろんな聖品をこさえては
心の中でだけ善人になって
むしろ
世の中が汚いから俺たちはさらに汚くならざるを得なかったんだと罵りながら
天使たちよりも清らかな自分を想像して
それをいい値で売りさばいた
償いの十字架を喜んで買う僕らは確かに一種の神秘を囚人の中に見出している
イエスキリストも捕らえられ
ある意味では囚人として
死刑囚としての死を迎えたわけだから
人類の贖いと
人間社会のはみ出し者っていうのは密接に繋がっていて
そこまで落ちた人間にだけ宿る光を僕らは観ている
囚人たちの作った銀の十字架は
僕らの魂を癒してくれる
だから囚人たちの作った銀の十字架は
我々罪びとには金の十字架を作るような事は出来ないという謙遜の徴
囚人たちの作った銀の十字架は
罪びとの贖いの徴
僕の胸元で揺れる囚人たちの作った小さな銀の十字架は
兄さんから僕への
あるいは大いなる旧約という兄から新約への
これ以上ないほどの矛盾と
わかりにくい愛の徴でもあるんだ