頭脳線、生命線、財運線が手のひらの中で結びつき、大きな三角紋を示す相は手相上でもかなりの吉相で、大きな幸運が見込まれると言う…女は自分の手のひらを見て何だか最近手相が変わったような気がすると思っていた。手のひらに大きな三角形が現れている。結婚線などは有名だがこの三角形は何なのだろう?そう思って調べてみると件の通り、これは僥倖を示す超吉相、この心理的出来事が作用してかゆく先々ラッキーな事ばかり起こった。ほんの数日前には気持ちが塞ぎこんでどうしようもなかったというのに女は別人のように微笑んでいた。私の手相はいわばダイヤモンドみたいなものよ、着飾らなくったって幸福が保証されているんだから…元来他人よりも不幸だと思い込んでいた女は自らが他人よりも幸福だということを生まれて初めて知り、その証が生まれながらに刻まれているということに心酔しきっていた。意外にもこの事が女を明るくさせ、いつしか周囲の幸福をも考えるように促すという良い作用を生じさせるに至った。自分が満たされていると知った女は慈善家になり、気性が穏やかになったせいもあって幸福な一生を終えた。
さて女が手相を調べたその時から数年後、実はこの手相は超吉相ではなくむしろ超大凶相で、三角紋というのは一般的に障害を表すのだからそれが手のひらのど真ん中、あろうことか頭脳線生命線財運線をひとつにつなぐなど言語道断、こんな相を見たらくわばらくわばらと占い師でさえ思わず自らに厄が降りかからないよう縁切りのまじないをするほどのおぞましいものであるという真説が手相界に浸透していたのである…心配性な人間はとかく占い師に頻繁に占ってもらうものなのでこの真説を真に受けて自殺までしたものさえ居た。だがこの女は自分の手相を調べたのはただの一度きり、その時に見た吉相という説だけを鵜呑みにしたのである。自身が幸福であったのは手のひらの大きな三角形の吉相ではなく、一種の無頓着さであった事を、女当人は知る由もなかった…。