詩【ヘッドフォンの心音】

ここがどこの街かもわからないまま僕は手を伸ばして
転がっていたヘッドフォンを拾い上げて耳に当てた
射程数十メートルのカラシニコフがまだ現役で働いているその地で
耳を塞ぐなんて
馬鹿げてると思うだろ?でも僕らには歌が必要で
僕らには歌が必要で、銃声をかき消すくらいに必要で
それくらい切実に歌が必要で
歌が無かったらもう、座り込んだまま立ち上がれなくなってしまう
流れてきたのは二十年も三十年も前の音楽
ピークに達してしまってるヴォーカル
ピークってのは
要するに…感情の根源みたいなもんで
心臓そのものの爆発音、ヘッドフォンの心音
心地いい領域を超えてるとされる音域なんだけどそのオンボロの音楽の
張り裂けそうな声は銃声を超えていた
僕は砂だらけの地面を手探りしながら
いま装着しているこの有線ヘッドフォンの発信源
繋がる先を手繰り寄せた
すると驚くべきことにヘッドフォン端子は
君の胸に刺さってるじゃないか
君の胸に直に刺さってるじゃないか
いつ撃たれたのか君の胸から真っ赤な血が、言葉が、言葉ともつかぬ歌が、全てが
流れて流れて僕の体内にまで、鼓膜を伝って浸透している
ベッドフォンの端子を伝って君の生まれてきたころの音楽がそのまま
鳴り響いてたんだ
有刺鉄線の向こう側だとばかり思ってた
油断してたわけじゃない、もう立ち上がれなかったんだ
歌無しには
君の歌無しには