詩【夜空に投網する】

夜空に投網する
小さな星屑が引っ掛かる
物語の中の姫君を真似て
お月様が欲しいのと
船頭に懇願もしてみた

しかし網を持っているのは私だ
網の重みを
常に感じながら生きてきたのは私だ
お月様がなかなかかからないからと言って
その網を投げ捨てるわけにはゆかぬ

船頭は漁に関する質問や願いを
久々に打ち明けられたと見える
何やら嬉しそうに投網漁のあれこれを唄っている

月を見るんじゃないんだ
闇夜なのだから
月を見るのではないのだ
月がそこに在るような気がすると思う
自分自身の心の反応をよく見ていろ
自分自身とは何者かをよく見ていろ
その反応が呼応したときに網を投げるのだ

あ、船頭さん
お月様が見えたよ
お月様と思う私の心は今
もう月を食べている
何度食べてもお月様は
また蘇ってくれるの
だからお月様は
私には優しいのよ

私はそう言うやいなや投網する
夜空に投網する
ちょうど十字路に差し掛かる
そう
このまま
まっすぐ
網は髪の毛で出来ている
私の
毎日の髪の毛で出来ている
電線に引っ掛かって
ああでも
お月様も一緒に引っ掛かった!
私は大喜びで月を抱く、暖かい月をこの手に抱きしめる

月は
いつでも
愛している人の顔をしている
美味しい姿をしている

だから私は投網する
夜空に投網するのだ