散文詩【エメラルド色に輝く地球】

「誕生日!」と言って僕は透明なアクリル樹脂の立方体に包まれたエメラルドの原石を渡した。君はそれを窓から差し込む陽光にかざして見せて呟いた『まるで地球みたい、宇宙に浮かぶ地球みたい』、それに対し「ああそういえば昔地球儀をエアガンの的にしていたっけ」と僕は口を滑らせた、しまったと思ったときにはもう遅かった。

君は光を受けてプリズムを形成するエメラルド入りの透明物体をさも大事そうに胸に抱え込み、非難の混ざった眼差しで僕を見つめてきた。『よりにもよって地球を的に戦争ごっこをするなんて!』「ごめんごめん」と僕は、何に対してなのかはよくわからないけれど謝っておいた。だってどうしようもなかったんだ、今この次元でこうして生きているこの場所にどれくらい影響を及ぼせるか試したくて仕方が無かったんだから。「…というか僕のやっていたのは戦争じゃなくて戦争ごっこ、サバイバルゲーム、しかも銃撃戦じゃなくてBB弾、でも鉛がコーティングされた弾も普通におもちゃ屋で売ってたなあ」

君はぎょっとして言う。『あのねえ、それで失明した子供が、あなたの世代に沢山いるのよ、だから私の世代はもうBB弾ごっこは禁止されていたもの、売ってもなかったし』「戦争ごっこは本能なんだよ、遊びだよ、誰だってするよ、かわいい女の子を見た時に乱暴する夢想を若いころには男なら誰だってしてしまうのと同じで、実際にはやらないよ、やる手前の…遊びなんだよ」こう反駁したのがよくなかった。

君は疑似地球を握り締めてわなわなしている。『どうして男ってそうなの!?なんで男ってそうなの??』
僕は狼狽えた、せっかくの彼女の誕生日、何回目かは敢えて聞かないで居る事に対する無意識的なストレスを緩和させたかったし、なんとか場を和ませたくてついまた余計なことを口走ってしまった。「ああほら地球が、君の持つ地球が、ほらほら大事にしてよ、僕はエアガンの的にしちゃうかもだけど君はそれを守らなきゃ…」

『なんで女にばっかりそういうことを押し付けるの!!じっとしていろとか保護しろとか大事にしろとか母親らしくしろとか!!馬鹿じゃない!!』
生まれてからずっと抱き続けてきた違和感で鬱屈しきっていたらしい君は誕生日に唐突に怒りの頂点に達したと見え、僕のプレゼントした透明樹脂立方体に包まれたエメラルド…それは確かに宇宙空間に浮いた地球のように見えた…これを僕に押し戻してきた。

美しくて大事にしなければならないものを抱え込み耐え忍ぶという事に君がこんなにも疲れ切っているだなんて思いもよらなかった。僕はまたとりあえず「ごめんよ」と謝って、その宝物を箱に仕舞いこもうとしたときにうっかり手を滑らせ、床に落下させてしまった。

…ああこれが地球だったら大変なことになっていたところだ、ガラスだったら粉々に砕けていたであろうそのアクリル製立方体はひびはおろかかすり傷ひとつついていなかった。それを見た君はにわかに微笑み、気を取り直したように静かに言った。

『案外強いのね』

僕も言った。「そうだよ、案外強いんだ」…だからそんなに過剰に心配しなくたっていいんだ、みんながみんな残虐な訳でもないんだ、みんながみんなとんでもなく弱いわけでもないんだ、みんなしなやかに強いんだ、もっとどーんと構えていていいんだ、喧嘩や一見残酷に見える遊びっていうのはそれをやらないようにする手段でもあるんだ、だから君だってもっと強くなったっていいんだよ、横暴に見えるほど好きなことをやったっていいんだ、これからは好きに生きたっていいんだ、だって君は今、このエメラルド色に輝く地球に確かに生きているんだから、これからも生きていくんだから…僕と一緒に、生きていくんだから。