「泥まみれの服が落ちていたので拾い上げ
洗って着て見たら、思いの外私に馴染んだのでこれはもう
10年前から私の服だったみたいな顔をして
纏って街へ」
「老住職が死に、その法衣が捨てられていたので拾い上げ
洗ってパリッとさせて着て見たら、思いの外俺に似合っているのでこれはもう
宗教法人を立ち上げ、生まれた時からの坊主みたいな風をして
正々堂々と公人の如く人に説法
それで救われたっていう人が居るんだからそれでいいじゃないか」
「今まで身に纏った事もなければ
一生纏うと思わなかったドレスが埃まみれで打ち捨てられている
赤の他人のドレスなんてと
思う暇も無くそれを拾い上げた私は
復活祭の如き疫病鎮静後の麗かな騒ぎの最中
誰にも告げずに生まれ変わる
マスクをつけるよりも前からドレスを身に着けていたのだという体で
ドレスコードのある集まりなんかにも
しれっと参加してしまう、そんな風に振舞ってしまえばそれでいい」
「初心者だという看板を下げて過ごすのが自分だと思い込んでいたけど
ある時、唐突に名刺を作って
HPを載せて
もう、10年も20年も前から自分は創作作家だったのだという事に
本当に気が付いてしまってからは
これがハッタリでも何でもなくって
単に真実なのだと、厚顔無恥にも芸術家を名乗る
生まれた時からそう名乗らなかったのをむしろ恥じてるくらいに」
何か手に入れたら、それが何であれずっと自分の物だったように堂々と活用する
服であれ
肩書であれ
振る舞い方であれ
…それらは全て自己表現なのだから
全てが、自己表現に過ぎないのだから
そして人が思う以上に
服も
肩書も
振舞い方も
決意も
勿体ない事に、活用されずに路上に捨てられていて、誰も手を伸ばさない
だからもしあなたが何かを偶然手にしたら
即座に、何のためらいも無く使った方がいい
もしあなたがその責任を負う覚悟があるのならば
即座に、実行に移した方がいい
何故なら覚悟や責任は実は
人為的な謙遜よりもずっと
軽やかなものに過ぎないのだから