アイスレモンティーの中に入れられていた氷のうちの一つは氷じゃなくて水晶だったの
ああ、貴方って素敵
ハート形をした水晶、初夏の光
君が氷を全部歯で噛み砕こうとしたらどうしようと思ったと、貴方は笑って私を見ていた
今日は別に誕生日でもないし、祝日でもないし、平日というか…
それも外出禁止令がそろそろ敷かれるんじゃないかってくらいの
緊急事態なのだけれど
私たちにとっては新緑麗しき季節
私たちはもう結構な年齢ではあるけれどそれでも
事の重要度を決めるのは数字じゃなくて私たち自身
ハートの水晶は冷たいレモンティーに浸されて静かに冷えていて
それを真昼の若葉の木漏れ日に透かして見たら
世界全部がレモンで香りづけされたみたいよ
貴方との恋はいつもこんな風で
集団に個人を合わせるのか個人を尊重するのか
両者の論点はレモンと紅茶のようには混ざり合ってくれない
選ばれし民はもう口を覆わなくてもいいけれど
私たちのひそやかな恋は、憚るので
布越しに微笑むくらいがちょうどいい
抗体を作った人たちにとってウイルスはさほど脅威ではないのかもしれないけれど
何もかもに敏感な私たちにとって王者の冠たるウイルスは
ただ漫然と過ごせば過ごすほどに恐ろしいものとなるのは哀しい事
それでも、ねえ、ノアの箱舟に乗れなかったとしてそれが何だと言うの?
はじめっから部外者だったとして、それが何だと言うの?
愛は死よりも強いから私たち、大丈夫よ、世界が終わっても大丈夫
とは言っても妬みは墓のように残酷だから
気をつけて頂戴、マスクを外して自由にキスする恋人たちを
あまり羨ましがっては駄目、緑の季節は木々に隠れて恋を交わせばいいの
世界は水晶みたいに綺麗だと知らせてくれる貴方に触れることは
私の生命に於いて最も重要度の高い事柄、生きる水をくれる貴方
空のグラスを傾けて微笑む紅茶色の逢瀬、ハート型の命、私たちの命
…溶けない結晶、全ての真実
詩【アイスレモンティー】
