散文詩【なんで騙されたりしたんだ】

なんで騙されたんだと怒鳴ったときにはもう遅かったんです、最初の一言で相手に対する親密度は決まるから、誰も責めてはいけなかったのに、それも被害に遭った人を責めてはいけなかったのについ、怒鳴ってしまったんです。でも俺らは…小さいころから物事がうまく出来ない時には馬鹿って怒られますよね?足を引っ張ったりする奴は叱られますよね?俺だって当たり前にヘマをすれば叩かれて生きてきたんですよ、みんなそうじゃないですか?だからあの時点でオレオレ詐欺なんかに引っかかった馬鹿が身内に居るってのが許せなかったんですよ。だってこんなにも注意喚起されてるじゃないですか、こんなにも言われていることを何で理解しないんだろうって…何で1000万も払っちゃっうんだろうって…だって俺が唐突にそんな事頼む人間なわけないじゃないかと、祖母に対しても思いました正直、俺が、婆ちゃん金貸してなんて言う野郎だと、当の祖母に思われてたっていう事に対する怒りもあって、だからつい、なんで騙されたんだと怒鳴ってしまったんです。

俺は俺なりに懸命に生きてきて…人にも迷惑かけないように生きてきて、それなのに唐突に…メールもしないで電話口だけで、のどが腫れて痛いから声が変だけど電話番号変わったから登録しといてとか、そんなんで何でそれが俺だと信じちゃったんだろうって、理解出来なかったんですよ。ええ、祖母とは今までも年に一度くらいしか会ってなくて、でもまあそれでも一般的に言う祖父母と孫の仲としては結構良い方なんじゃないかなと思ってたんです。確かに、現実的には祖母が居ても居なくても俺の生活は変わりませんよ。居ても居なくてもどっちでもよかったんです。身内ではありますが生活費を貰うとか財産を貰うとかそういう関係ではないんです…うちはそんなに豊かな方ではないんで。というか祖母がきちんと金を貯めてたって事に関しても知らなかったくらいで、どうにかこうにか生活してるんだろうとばかり思ってました。それくらい…会えば気さくに話せますが、関与してなかったんです。

馬鹿だなあとやっぱり思ってしまいます、俺もそう思ったし両親共々祖母を責めてました。なんでこんなに世間で言われていることにひっかかるんだって…だから詐欺被害に遭ったことが祖母の中で一つの、罪になっていったんだと思います。被害に遭ったこと自体が悪になっていったんだと思います。だから悪い自分はもう死んだ方がいい…きっとそんな風に思って自殺したんだと思います。今度は身内に自殺者が出たってことで両親は嘆いています…祖母は独居でしたから当然誰も自殺に気が付かずにいて、年明けに発覚したんです、物凄い有様でした。家も取り壊して…その時に遺書が出てきたんですよ、誰かの役に立ちたかったと書いてありました。でも自殺の後片付けも全部俺らがやったわけですからむしろ迷惑だと両親は憤慨してました…迷惑か迷惑でないかで考えれば確かに迷惑で、それはその通りなんですけど俺は、俺は、ああ、なんて言ったらいいんだろう?

人の善意が社会の中でうまく作用してないからこういうことが起こるんじゃないかって気がするんです。人間は根本的に誰かのためになりたいんですよ。俺だって根本的にはきっとそうです。でも意志は目に見えないからかな、それが善意か恩着せがましい悪意かわからないからみんな関与を避けるんです。哀しいけど俺も避けてしまいます。でも…詐欺師共はまさにそういう人間の善意を食い物にするんです。

その結果…俺たちは何故か詐欺師じゃなく余計な善意を責め、俺たちは何故か被害者の落ち度を責め、俺たちは何故か自殺者をも責めてしまうんです。それは俺たちの【意思なき社会を是認しない『反思想』の結果起こった自業自得だ】とでも言うかのように、弱い立場の人を責めてしまうんです。…でも本当は俺はこんな社会を望んでいない、俺はもし自分が詐欺に遭ったらどんな手口かをきちんと公開して皆に役立てたい、そう思っていたんですよこれでも!それなのにいざ事が起こって見たら…なんで騙されたりなんかしたんだと、つい、被害者に対して怒鳴ってしまったんです…。