散文詩【夜光虫】

久しぶりにお手紙を書きます。船の中でお会いした時、貴方は私が以前とは随分変わったとしきりに言っていましたね、それほど私は変わったでしょうか?ただ、今渡ろうとする海峡では、元来30年で成される浄化が3年で行われようとしているのです…これは凄まじい速度です。船客であり旅人である私たちは穢れれば穢れるほど、汚れれば汚れるほど、荒波に揉まれれば揉まれるほど…そして尚正気を保ち続ける事を信じれば信じるほどに、浄化されてゆくのです。これは世論の腐敗も含め、ノアの箱舟の時代のように世界が闇に没すれば没するほど、自ずから輝くことを余儀なくされた人たちが、時に痛みを伴う変容を以て、変容させられてゆく摂理と同じです。親愛なる貴方、どうか闇に飲まれないで下さい。こんなことを言うと私がおかしくなったとお感じになるかもしれませんが…この変容が始まってからというもの、私は自分の内部に道しるべが見えるようになったのです。私の行くべき道は光っていて、その光は自分ひとりの光ではないのです。はじめのうち、それが何のことだかさっぱりわかりませんでした。でも魂で旅人と対面するようになってから、およそ良いとされるもののほとんどは『外側』から訪れるとはっきりと感じるようになりました。誰、とも言えない旅人たちと語り合うようになってから私は変わりました…彼らと共鳴した時に額の奥が光るのです、馬鹿げてると思うでしょう?人間は発光するのですよ、夜光虫みたいに。いえ、これは決してたとえ話ではなく人間は内側から光るのです。自らの内部に道しるべが見えている人、自らの内部の道しるべを信じていればいるほどに、その道しるべに記された物事や辿り着くべき事象について実行していればいるほど…外部の要因というものが実質ほとんどすべて『祝福』であったと知る仕組みがあるのです。そしてそれを分かち合えた時、人間は発光するのです。闇の波がこの船を覆うほどに人間は光ろうと努力します。私は、元来30年かけて鍛え上げるべき発光現象を、3年で完遂出来るよう精錬されている最中なのです、今まさに私は生きながらに闇の煉獄の炎で焼かれ、打ち据えられているのです、性根を鍛えなおされているのです。ああ、どうかそんなに心配そうな顔をしないで下さい、私は乗り越えて見せます。だってこの船が今、だんだん強くなる光に包まれているのですから。じきに夜光虫でこの海は溢れます、そのときに初めてこの星は青く輝くのです。青く美しく輝く星となるのです。だからどうか貴方も、輝いてください、小さい船に乗る私より。普遍的な愛、内部から溢れ出る愛を込めて。