散文詩【悪夢】

子供の霊が腕だけを出して、天窓に手鏡を掲げて笑っている、その向こうには月が見える
…昼だと言うのに、転寝が悪夢を引き起こした
視界は二重になり、夢の大屋敷と家が繋がり、家は拡張する…恐怖と一緒に
もう行きなさい、どこかへ行きなさい、ここから出て行きなさい、さあ早く早く
と言いたいが舌がもつれて何も言葉にならない
坊主の読経めいた声のみを我が主張として私は発する、苦し紛れのその声を自分でも奇異だと思う
子供の霊よりも奇異
緑地を隔ててはす向かいの、知的障害者の出す奇声よりも奇異だ、ああかわいそうに
その家の戸は朝七時に開くが、奇声が響くや否や隣家から怒号が飛び、すぐに戸を閉じ
あとは一日そうしているのだ
戸が閉まっていてよかった、金縛りの私は笑う、お陰で今こうして奇声を発していられるのだから
しかし手鏡を持つ手は増え、周囲は意味を失い、月日という数値をも失い、恐怖だけが
笑いながらやってくるのを
必死に払いのける
人間の極限はこれなのか
なに、私だってともすれば親父に殺されていたのだ、役立たずの運命は概ね決まっている
彼の悪夢にも私は霊となって登場し、手鏡を向け、己を見よと囃し立てているに違いない

…許せ許せ己を許せ…

呪文を唱え、目を覚まさせてから辺りを見回すと、まるで知らない場所に見える
全てが無意味だ、しばらくして
概要としての年齢だとか街の様子だとか日本語というものがふつふつと芽を出す
つまり風景に意味が生じるのは、一番最後だ、ほとんどすべては絵のように意味が無い
そして恐怖とは
つまるところ、罪悪感である