
綺麗なものが目に入る人と、真っ先に汚いものが目に入る人間がこの世には居る、残念ながら私は後者らしい。影を透かして世界を見ているようだ、この写真のように、いつも何かに遮られている。
冬の晴れた日は小さな天国が出現する、寒い時期の人間は慎ましやかに遊ぶからだ。そんな中、前々から怪しいと思って居た爺さんに私はついに声をかける。
「今、うちの庭にタバコのポイ捨てしましたよね?見てましたよ、これ、あなたの吸い殻でしょ」
老人は狼狽えつつも私の差し出した吸い殻を受け取りながら、案外素直に謝罪する。連れている犬がこちらを見上げている。私は喉元まで出かかっている言葉を飲む。それはこんな言葉だ。
「あなた、たまに、袋入り犬糞も捨ててるよね?あたし、わかってんだからね」
というのも、この度目の前で捨てられたタバコの銘柄と、いつも捨てられている犬糞の傍におちているタバコの銘柄が合致したからである。犬糞はいたるところに、一種の遊びのように捨てられており、ごくたまに、堂々と人家の柵などにこっそりひっかけてあったりする。すぐそばで人々が楽しそうに岸辺で遊ぶ声が聞こえる、いいなあそっちは天国だ、こっちは地獄だ、今私はこの老人と共に畜生道か何かに堕ちている気がする。
犬糞の件は現行犯ではないので黙っている、出来れば一生このような事に関与したくはない…が、よくよく考えてみればその日も私は趣味のゴミ拾いで川辺にて大量のゴミを拾った、タバコの吸い殻なんざ合計何十本と拾った。それを考えると…犬糞疑惑がかかっている人物とは言え、たかが一、二本のタバコの吸い殻である…数で言ったら許してやったほうがいいような気もするが、それがひとたび我が家に投げ込まれると結構腹が立つものだ。私もまだまだ六波羅蜜修行が足りな…いや、もうこの手の修行からは脱却したい。私も彼岸で楽しく遊びたい。
…綺麗なものが目に入る人と、真っ先に汚いものが目に入る人間がこの世には居る、残念ながら私は後者だ、影を透かして世界を見るしか術がない。だから世界はいつも暗い。
なので、たまに光が差すと、信じられないくらい明るく感じたりもするのだ。