【朗読】貧しき人々(前編)/ドストエフスキー

ほかの人の言うことはわからないけれども、ドストエフスキーの言いたいことだけはよくわかる。

全作品を読破したわけではない、というかほとんど読んでいないくせにこういう事を言うのもあれなのだが…それでも、人生初、二十歳くらいの時にカラマーゾフの兄弟を読んだ時の衝撃は忘れられない。

というのも、それ以前、私は小説というものが全く読めなかったからだ、つまり私に本の読み方を教えてくれたのは他ならぬ、ドストエフスキー先生なのである。

ドストエフスキーの良いところは、人間が丸一日かけて行う思考循環を、そのまま文章に仕立てて、しかも独自の解決策なり閃きなりをきちんと提示してくれるところだ。

人間があれこれ考えることは、一見無駄のようにも思えるが…じゃあ閃きや解決策だけを、標語のように提示すればそれですぐ飲み込めるのかというと、そうでもない。

だからドストエフスキーというのは、閃きがありながらも凡人の思考回路にきっちりと寄り添って物事を説明してくれる、(ものすごく親切だが厳しい)独特な先生のような感じがする。

さて『貧しき人々』は、受け身な(中年)男性と困窮した10代少女の愛の物語である!…と書くとすさまじくラノベっぽい感じがする(し実際そうなのかもしれない)が…ただ、それが親子愛なのか?恋愛なのか?友情なのか?親戚としての仲間意識なのか?ただ愛でたくて強引に養っているのか?…それは当人たちにもわからない。

困窮した少女ヴァーリンカを、下級官吏のマカール氏が、必死に助けている…とも言えるし、囲っているようにすら感じられるし、少女のほうでも様々に逡巡しているので、読み進めるごとに、二人が、ごく普通の人間なのだということがこれでもかと現れてくる。

いやあドストエフスキーはいいですなあ…!(というかそれ以外の小説が頭に入ってこない体質なので、次に何を読んだらいいかわからない)