散文詩【薔薇色の午後】

薔薇色の午後

熟れて甘酸っぱい香りを放つ薔薇の花を散る前に花首から剪定しておく。一輪、また一輪…花かごは見る間に一杯になり、薔薇色を抱えて家へ入る…午後の空気は甘く小休止がてら床に並べた花の中に寝転ぶ。一輪一輪、鼻先へ持ってゆき、香りの世界へ…白い薔薇はフルーツの香り、オレンジの薔薇はシャンプーそのものの香り、黄色い薔薇は春の花の青っぽい匂い、濃い薔薇は愛の香り、深紫は死の香り…初夏の黄昏の中で意識は舞い散り、いつしか目を閉じている。眠りというものがすべからくこのようであったらいいのに。生まれ変わりがそうであるように一瞬後には目が覚め、さてもう一輪、手に取ろうとして指が花のひだに触れた瞬間に、花びらの一枚一枚が唐突に花弁から解け散り、あたり一面に色が舞う…花を形作る命の紐が千切れたみたいに、白、黄、オレンジ、ピンク、どの薔薇も散っている。ああ、もしかするとたった数分の眠りの間確かに私も…死んでいたのかもしれない、薔薇色の午後。