短編小説【木になった男】※個人的おすすめ小説
男はやがて痒みの発作後にもそうであるように髄を密かに発光させて息絶え、今まで外界との境界線としての役目を生まれ出でて一度もまともに果たさなかった役立たずの皮膚は脆い菓子のように砕け散り、種々の養分は化膿した表皮を押しのけてその肉体から溢れ出た。根を伝って彼は細かく山の四方八方へと運ばれた。その不可思議な死生の旅程の中で幾たびも自国の神話の根の国の話や黄泉の世界の概念などを思い返しては感嘆し、土中に分散しても尚男は自我を保って木々に問いかけたり一緒に歌ったりしていた。