【自作短編小説】

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短編小説【乳子と善吉】※R15指定

「確かにあれは小春が稼いだ金だからね、僕じゃ稼げない、二人が幸せならそれでいいんだ、慰謝料とか養育費とか博士号までの学費とか要るだろうし…あいつが小春に…売春させててもいいんだ、あの男も一見人当たりが良いから客を捕まえて小春にあてがうかもしれないね、もしかしたら今まで以上の高給取りになってるかもなああの牝牛は!何にせよ小春に沢山の食い物と沢山のちんぽが必要だってことを理解してくれていれば…僕はそれでいい」
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短編小説【木になった男】※個人的おすすめ小説

男はやがて痒みの発作後にもそうであるように髄を密かに発光させて息絶え、今まで外界との境界線としての役目を生まれ出でて一度もまともに果たさなかった役立たずの皮膚は脆い菓子のように砕け散り、種々の養分は化膿した表皮を押しのけてその肉体から溢れ出た。根を伝って彼は細かく山の四方八方へと運ばれた。その不可思議な死生の旅程の中で幾たびも自国の神話の根の国の話や黄泉の世界の概念などを思い返しては感嘆し、土中に分散しても尚男は自我を保って木々に問いかけたり一緒に歌ったりしていた。
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ショートショート【S子の膀胱】

便座から立つと、血尿が床に滴るのも構わずにS子は自分の部屋のふすまを思いっきり開け閉めした、白髪が目にかかったが、まるでそれすら他者であるかのように払いのけ、S子は気の狂ったように小さな畳敷きの我が部屋の戸を散々に開け閉めして音を出した。
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短編【最後の、森の人】縄文時代イメージ小説

女は霊魂となって『今』でも森の中、様々の時間の一点に向かって語り掛けているのだ、よって森は今でも続いている、焚火は今も尚燃えている…森の人の時代は今でも続いている。
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短編【光る酒】江戸時代イメージ幻想小説

手荷物をひったくり、武者震いのようになっている手で風呂敷を解いて一口煽った。 …頭の奥深くに光る酒が染み込んでゆくのがわかる…! 斧が目の前に落ちてようやく自分が酔っ払っている事に気付くと彼は酒と斧とだけを持って小屋に引き返した。
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ショートショート【聖女の嘘】

翌週から爆撃が開始され、病院は…この看護修道女の隠しておいた骸骨の聖母の素描もろとも跡形もなく焼き払われた。
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短編小説【悪人の花壇】

老婆は中年の孫を見て微笑んだ。男が黙っているのを見ると独り言のように呟いた『街の中心広場がごみ溜めじゃあこの街は遠からず終わる、今よりもっと腐敗するよ、勿体ないね、せっかく聖者様が信じる者たちを連れてきて住まわせたのがここの始まりなのに…本当は誰かが何とかしなくちゃいけない、でも見て見ぬふりさ、あたしだってそう』 南米イメージ小説。
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短編【浄瑠璃人形花鈴奇譚】江戸時代イメージ小説

一体の浄瑠璃人形に心を奪われた米屋の若旦那、冷ややかなその妻、人形と人間の織り成す江戸時代イメージ小説。
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短編【鬼子母神の涙】江戸時代イメージ小説

女罪人は一人せせら笑った。それがあまりにもあっけらかんとしていたので坊主は図星を突かれたにも関わらず怒りの感情が湧かずに岩や石ころだらけの足元を…多少曲がった脚をじっと見つめていた。子殺しの女罪人は続けた。「だから罪人の仕置きをやらされてるんだねえ」
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ショートショート【空から落ちてきた名前】

紺碧の空を行く旅人は大きな荷物を抱えていたが疲れのせいかその鞄の紐が緩んでいた。あっ…と思ったときにはこれから名付けるべき名前たちが小さな銀の鈴の音を立てながら雪のように鞄から舞い落ちてしまった。