散文詩【俺は容赦なくぶん殴る】

ずっと昔クラスに居た自称ヤンキーの生き残りが言ってた言葉を今でも俺は思い出す。
「俺は差別を受けているからその分は社会に仕返しする」だが俺はそいつをぶん殴らなかった。
そいつが俺の父親の仕事先である家電量販店で音楽機材をしこたま盗み出したことをその口から聞かされても俺は黙っていたし葉っぱをマンションの一室という小空間で大規模栽培しているって話を聞いても俺は素知らぬ顔をして一緒に屋上で昼飯を食ってふざけてた。
そいつの正式な国籍を聞いた時の正直な感想は、羨ましい、人間的区分に疎い当時はただそれだけだった。
悪を行う理由がある奴の持つ不可思議な自由さを若かった俺は歯噛みしながら横目で見ていたんだ。

俺が殺人をしない理由は何だろう?
俺が窃盗をしない理由は何だろう?
俺がレイプしない理由は何だろう?
そんなに善人で居たいのか?

ぶっちゃけ、ポイ捨てする奴なんかみんな低所得者だ見てみろ。
コンビニで売られている食物加工品しか奴らは口にしないんだそして「俺は社会から除外されているからその分は社会に仕返しする」っていい歳をして暗に語っている。
こういう奴らを心の奥底では心底ぶん殴りたいと感じているのに当の俺はまたゴミを拾い上げる。
結核じみた疫病が蔓延する最中、一個も残っていないコンタック咳止め薬が、おそらく販売当初から残飯じみていたであろう残飯に交じって大量に捨てられているのを見てやっぱり何処か同情している。

彼らの幼稚さに共感してもいるのだが別の奴の言った言葉も思い出す。
「俺は貧乏だからその分は社会に仕返しする」団地、片親、創価学会、非差別国籍だのなんだの、でもさあお前そりゃないぜ俺の家も団地暮らしで貧しいが俺は仕返しをしない。
それを善人ぶってるって言うんならもうしょうがない、いつまでも偽善者で居るのをやめてついに、俺はお前をぶん殴る事にする。
むかつくからぶん殴る、実際には社会の底辺ってのは俺の事でもあるから俺はそいつらを殴る要領でゴミを拾い上げる。
多くの人は、ユニセフとか国境なき医師団やどっかの難民たちのために1000円出せても同族…それもクソ野郎だと一目見てわかる同族には100円どころかびた一文出さねえし穢れたものにも触らねえんだ。

それでも言わせてくれないか?
一言言わせてくれないか、困ってる奴ってのは性根が屑だから困ってるのかもしれないが奴らを叩けば叩くほど無視すればするほどそいつらは偽悪的になる。
ほんとふざけんなよって言いたいのは判るが人間の悪しき習性の中に競争に負けた同類に対する侮蔑というものが深く宿っている。
この本能を、社会の底辺には属さない清き人々たちはいい加減乗り越えてくれないか?
自分以下の奴を許してやっちゃくれないか?
その向こうには愛ってやつが燦然と光り輝いてるんだ。
だってわかってるはずだ助ける相手ってのは見たこともない人種や宗教の奴じゃなくて近寄りたくないのに近くにいる薄汚い怠慢な奴らなんだってことを、それでもそいつらの心に宿ってるしょうもない悲しみを少しでも見てやってくれないか?
俺も心を入れ替えて言い訳を乗り越える。
今度そういう奴に出会ったら仕返しだけはだめだときちんと言ってやるって決めたんだ。
極悪人を作り出さない努力をしようぜ!

だいぶ時間は経っちまったが「俺は社会に仕返しする」ってやつを俺は制する。
俺の父親の勤め先の家電量販店で高い機材を盗み出す奴が居たら俺はそれを制する。
俺の妹をレイプする奴が居たら俺はそいつを正面切ってぶん殴る。
何故って、社会への仕返しを受けるのは大抵直接的な関与の無い弱い人間に限定されるからだ。
お前らの仕返ししたい相手なんざ住む世界が違うんだから目も合わねえし捨てたゴミを知ることもねえよすれ違ったりもしないさ。
そんなんだからいつまでたっても馬鹿なんだよ。

それでもって俺の父親ってのは全ての男の事であり妹というのはつまるところ女という存在そのものを指す。

そういうもんだろ?
一体何処に寄付すりゃ恨みを抱いた奴の悲しみは癒えるのだろうか?
一緒に昼飯食おうぜって言ってふざけてりゃ済むならそうしたい。
だから社会への仕返し行為を実行している奴がいたら俺は容赦なくぶん殴る。
恥ずべき同類をぶん殴ると、底辺なりについに覚悟を決めたところだ。