詩【泣きながら捧げる聖女の口づけ】

花びらのお茶さえも枯れていってしまった、謝らせてちょうだい

ごめんなさい、泣きながら待ちわびる聖女の口づけ、薔薇の雨の予定は無いの、だって未来なんて無いから
沢山の人と未来の話をして
ずっと前から未来の話を軸に生きて
未来の話と合致しない部分があれば各々が各々の整合性を取ろうと躍起になるのを
ただ眺めて
聖女の口づけを夢見ながら未来に涙を込めたの
あんなに話し合ってきたのに、ごめんなさい、正直に言うわね
待ち望んでいる薔薇の花びらは「訪れ」ない
ここは夜明け前のまま
だって未来なんて無いから

もう死んじゃったのよ
来ない時を待ち続ける事が生きる事であるならば、私たち、もう死んじゃったのよ
祖霊が壁のすぐ裏手に佇んでいる
ねえそっちからは、どんな風に見えるの?
未来を仮定して生きている私たちはどんな風に見える?
朝焼けの唄を唄おうと誓い合ったまま
風に吹かれて薔薇のお茶を飲み続けている私を置いて、泣きながら待ちわびる私を置いて
どうか連れて行って未来に
合理的な素晴らしい未来にどうか
連れてってよお願い
生きながら煉獄に居る、父さん母さんを連れて行ってあげて

泣いているのよ
仮定しながら一瞬一瞬を過ごす事の無意味さを
嘆いているのよ
祈りの中に願いを込めてはならないというのはこういう事なの、未来を込めてはならないのは
今を味わえないからなのよ
ねえ今、風が吹いて、頬の涙を乾かして行くわ、涙は数秒後に何処へ行くのかしら
涙のカーテンが蒸発し、遠くに見えるあの星は一体…
いつの光なの
父さん母さんが生まれるよりももっと昔からの光なの

救って下さいどうか
牢獄に居ると、解らせて下さい神様
50年後の私なんて居ないのだから
20年後の私なんて居ないのだから
明日の私なんて何処にも居ないのだから本当は、どうか
救って下さい罪深い聖女よ
花びらの雨を未来に降らすなどと仰らないで
だって未来なんて無いから、今すぐに私に口づけをして

もうお喋りはやめて
未来のお喋りなんてとんでもない事よ、花びらの味だけを舐めながら指を咥える、どうしてそんなにお行儀が悪いの、そんなのは
私を信用していない証拠、私が、誰も信用していない証拠
信じて下さい私を
信じさせて下さいあなたを
今のあなたを…

窓の向こうに朝焼けが見えて、部屋を満たしていると感じているいつかのあなたを
それがどうしても過去のものに変化してゆくと嘆く、刻一刻と遠ざかるあなたを
まだ信じているということを
誇りに思わせて下さい
それが聖女の口づけだと
時間を超えた花びらの雨なのだと
泣きながら待ちわびた私に信じさせてください、だって

未来など、無いのだから今、顔を上げて聖女の口づけを受け、薔薇の花びらで絵を描く私を

あなたに捧げるわ、愛しい聖女よ