散文詩【僕は君と強く見つめ合ってから意を決して頷き…】

分厚い書物を開いて針を刺す、どの位深くページに突き刺さっているかをよく見てから、その針の貫いている箇所の文字を当てる…そんなテストを僕らは選ばれし民の子供として受けていて、でももうすぐ正式な学校に入らなきゃならないからあの子ともお別れだなあと僕は寂しく思っていた。あの子は銀色がかった長い髪をしていてどんな文字でも言い当てることが出来る、もう律法を全部覚えてしまったんだって…でも女の子だから僕らの行く学校には入れないんだってさ。半分温室みたいになった庭の傍の広いテラスにみんな集まって祈って歌っていた。選ばれし民であることを神に感謝する歌を歌っていた。ここにあるのは全部カシェル用の物だ、正統派の使う物だけしかない、不純物の取り除かれた世界…だからあの子もじきに追い出されてしまう。あの子を密かに目で追っていたけど誰も気が付かない。大人たちから見れば子供同士の恋なんて、まるでままごとなんだろうけど僕たちは本当に悲しかったんだ。一分、二分、三分…じりじりと時間は過ぎて、今度は叔母さんがお祝い用のお菓子をみんなに振舞っている…けどこれは実はあんまり好きじゃないという子が多い。けど食べる、あの子も食べている、涙をこぼしながらお菓子を静かに頬張っている。僕は『まだ正式に入学する前だから』『今はまだ完全な子供だから』という理由であの子にすっと近づいて行き、手を繋ごうとしたけど彼女は払いのけた。『みんなが居るから』そうだね、僕らはもう数年前みたいに…銃を持って散歩する女性徴兵士が暗に見守ってくれているあの公園で遊ぶ泥だらけの赤ちゃんではないよね。僕らはもうすぐ、学校に入学するんだから、無暗に女の子と手を繋いだりなんて出来ないよね。でもさ、生まれてから随分経ったような気もするんだ、とても長い時間が…それで僕たちは結局、ああ、口にするのも怖いけどもう会う事も無いんじゃないかな?君は泣いてこっちを見ている。『でも近所だから、この地区だからまた会える、お祝いの時なんかに会えるでしょ』わかってるよ、それが会うってことじゃなく、見るってことに近いのはわかってる、君だってわかってるし僕もわかってる、それは会ってるとは言わない。親に頼んで君をお嫁さんにって、ラビにも言ってもらおうか?でも…君の家系にはアラブ人が少し混ざってるって聞いたから君をお嫁さんには出来ないだろうな。第一そんな事じゃないんだ、なんていうか…そんな事じゃなく、ただ君と赤ちゃんの頃、完全な子供の頃みたいに夢中になって遊べたらなあって強く思ってるだけなんだ。もうすぐ学校に行く年齢だっていうのに僕はなんて子供っぽいんだろ…ねえこのまま僕らは歳を取ってゆくのかな?いつの間にか大人になって、今この瞬間、みんなで集まって祈って、男たちの黒い服が何時間も輪舞するこの瞬間の事なんて、昨日見た夢みたいに忘れちゃうのかな?それとも僕らは全くこことは違う何処か別の所で毎日目が覚めていて、こんな切ない想いも、無かったことみたいに笑い飛ばしてしまうのかな?この教えの事も?ああ、なんで僕は今、僕なんだろう?…学校の先生が新入生になる子供たちを見にこの広いテラスに入って来た。僕は君と強く見つめ合ってから意を決して頷き、この祝いの場で提示された課題を解いた。律法に刺された針の示すところ、数百ページ先のどの言葉、どの文字を貫いているかを言い当てた。…それからは僕は君のことを見なかった…正統派の黒服に身を包んでいる間じゅうずっと、死ぬまで、ずっと。